山の中ほっつき歩いていると妙なものに出くわすことがある。
これはヌードタヌキさん。
疥癬という病気で毛が抜け落ちてしまっている。
この様子じゃ今年の冬はきっと持つまい。
自然は容赦ない。
「自然は大きなホスピタル」なんてCMがあったが、いいところだけ見てると足下をすくわれる。
人の手が入った人工的な自然に肩までつかって、癒しだエコだ言ってる人が
なんかの拍子に自然の中に迷い込んでしまったりして、
そこで一晩過ごすことになっても癒されるかってーとそうでもない。
自分の足下が見えないような真っ暗な森の中、
上だか下だかもわかんなくなるような闇の中、
耳とか肌の感覚とかがギンギンに冴えてしまって、
風でざわざわと揺れる木のざわめきとか、
足下の木の根に生えるしっとりとしたコケの感触とかが靴越しに感じられたり、
夜行性の獣の動く気配、鬱陶しく体にまとわりつく小さな虫。
ヒザを抱えて丸くなって、長い長い時間ただ丸くなって、
そして朝が来て、日が昇り、
なんてことはない、よく知った林道の脇道にそれたところだと分かって、
転がるように林道を下る。
脳天気な顔したハイキングの若者がすれ違いざまに「こんにちはー」。
返事も返さず走り抜け、ふと気が付き振り返る。
ハイキングの若者はもういない。
何故なら、その若者は昨日の自分だったからだ。
自然を少々知ってると思っていても、
いざ捕らわれてしまうとなんにもできんしなんにもしらん。
だからもっと知りたいとくらげねこは思う。